レイクス蒸留所(The Lakes Distillery)は、2014年イギリス北西部の湖水地方に誕生した蒸留所です。
エレヴァージュという独特の製法で多彩な味わいのイングリッシュウイスキーを生み出しており、これまで複数のアワードを受賞している評価の高い蒸留所です。
本記事では、2023年6月30日に開催されたレイクス蒸留所のウイスキーセミナーに基づき、蒸留所の魅力や特徴を解説します。
セミナーで試飲したレイクス蒸留所の6つの銘柄のレビューを掲載するので、蒸留所やイングリッシュウイスキーに興味のある方はぜひご覧ください。
レイクス蒸留所とは

レイクス蒸留所は、2014年イギリス北西部の湖水地方に誕生しました。
スコットランドであればスコッチとなりますが、イングランドにあるレイクス蒸留所で製造されるウイスキーはイングリッシュウイスキーです。
基本情報は下表のとおりです。
場所 | イギリス(北西部・湖水地方) |
創業年 | 2014年 |
創業者 | ポール・カリー氏 |
代表銘柄 | ・ウイスキーメーカーズ リザーブ ・ウイスキーメーカーズ エディション ・ザ ワン ・ザ レイクス ジン ・ザ レイクス ウォッカ |
輸入元 | 雄山株式会社 |
ウイスキーメーカー、サラ・バージェス氏

セミナーでレイクス蒸留所の魅力を解説してくれたのは、ウイスキーメーカーのサラ・バージェス氏です。
かつてディアジオ社に20年以上勤務し、「カードゥ」「オーバン」「グレンキンチー」「クライヌリッシュ」の各蒸留所で経験を積み、後にマッカラン蒸留所のリードウイスキーメーカーを務めました。
2023年1月より、レイクス蒸留所のウイスキーメーカーに就任。
製造業務全ての責任を引き継ぎ、25年以上におよぶウイスキー造りの実績と知識を活かしてレイクス蒸留所のウイスキーをデザインしています。
レイクス蒸留所の誕生

2014年12月、ポール・カリー氏がイングランドの湖水地方にレイクス蒸留所を立ち上げました。
ポール・カリー氏は、かつてシーバス・ブラザーズのマネージングディレクターだったハロルド・カリー氏の息子で、アラン蒸留所を創設したハロルドのウイスキーへの情熱を引き継いでいます。
ポール・カリー氏は休暇でイングランドの湖水地方を訪れた際、160年以上も前の農家の廃屋を発見し、蒸留所に適した拠点になるだろうと感じたそうです。
廃屋は湖水地方国立公園の中央部にあり20年間放置されていたにもかかわらず非常に美しく、ロマンスあふれる建造物でした。
この放置されていた建物を蒸留所にすべく、ポール・カリー氏はスチルや樽が収まるように建物を調整してビジターセンターも建築。
2014年12月にオープンし、オープン時にはアン王女も立ち会いました。
蒸留所のある湖水地方国立公園(Lake District National Park)は、2017年よりユネスコの世界遺産に認定されています。
特徴的なクローバー

レイクス蒸留所のシンボルは四つ葉模様で、ラベルのロゴにはもちろん、ボトルそのものにも四つ葉がデザインされています。
四つ葉は、蒸留所の候補となった農場の敷地にある建造物に、採光用の窓としてデザインされていました。
蒸留所の改修中には 26 点もの四つ葉のシンボル描写が発掘されたとのことです。
四つ葉は「信仰」「希望」「幸運」「愛」を表す古代ケルトのシンボルであり、レイクス蒸留所は自分たちの核となる信念を象徴するとして、四つ葉をロゴとして採用したそうです。
レイクス蒸留所の製法
多彩な味わいのウイスキーを生み出すレイクス蒸留所には、次のような製法の特徴があります。
それぞれ詳しく解説します。
- 複層的なフレーバーを生むエレヴァージュ
- フルーティーな味わいを生む長時間発酵
- 2種類のコンデンサー
複層的なフレーバーを生むエレヴァージュ

レイクス蒸留所のウイスキーの特徴は多層的で複雑なフレーバーで構成されている点であり、その特徴を生み出すのが「エレヴァージュ」という製法です。
エレヴァージュとは
熟成・育成を意味するフランス語で、主に発酵の終わったワインをタンクや樽に入れて品質が安定するまで保管する工程を指す。
エレヴァージュはワインやコニャックの製法で、ウイスキー造りでエレヴァージュが採用されるのはレアケースです。
レイクス蒸留所で採用しているエレヴァージュとは、原酒を樽に入れた後、定期的に樽ごとのフレーバーをチェックし、徐々に変化する樽ごとのフレーバーに合わせて、樽から樽へと原酒を移して原酒を育てる工程です。
繊細かつ非常に手間のかかるエレヴァージュによって、レイクス蒸留所のウイスキーに複雑で複層的なフレーバーが付与されます。
レイクス蒸留所では、熟成にサイズの異なるアメリカン・スパニッシュ・フレンチのオークを使用しており、80~90%がシェリー樽です。
フィノ、オロロソ、ペトロヒメネスのシェリー樽のほか、例外的にマンザニア、ハッキングシェリーも採用しています。
フルーティーな味わいを生む長時間発酵
レイクス蒸留所のウイスキーは、発酵中に3種類の異なる酵母株を組み合わせて約96時間もの長時間発酵を経ています。
通常、48時間発酵させれば蒸留が可能であることを考えると、レイクス蒸留所は業界平均の約2倍。
この長時間の発酵により、非常にフルーティーな香味が原酒に付与されます。
レイクス蒸留所では、今後もフルーティーな香味、そしてシリアル感のある香りを出すため、原料やイースト菌・製造方法を追求していきたいと考えています。
サラ・バージェス氏は、「レイクス蒸留所は、一度フレーバーのレシピを作ったらそれで終わりではありません。常に進化を遂げていくものと考えておりますので、継続的に新しいイーストや新しい市場を模索し、今までなかったようなバラエティを持たせる可能性を探究してまいります」と語ってくれました。
2種類のコンデンサー
レイクス蒸留所の設備でユニークなのは、蒸留液を冷やすコンデンサーが2種類ある点です。
銅製とステンレス製の2種類のコンデンサーがあり、蒸留液をどちらで冷やすか選択できるのです。
コンデンサーの材質は、スピリッツの酒質に大きく影響します。
造りたい味わいに応じて使用するコンデンサーを変え、より細かく味わいをデザインしているのでしょう。
レイクス蒸留所のスピリッツ

レイクス蒸留所では、ウイスキーの他にジンやウォッカといったスピリッツも製造しています。
画像はレイクス蒸留所で造られているスピリッツのポートフォリオで、ピラミッドの頂上がシングルモルトウイスキー、2番目がブレンデッドウイスキー、一番下がジンやウォッカです。
ウイスキーのラインナップは3種あり、特徴は下表のとおりです。
シリーズ | 種類 | 特徴 |
ウイスキーメーカーズ リザーブ | シングルモルト | レイクス蒸留所のハウス・スタイルを体現する王道のシングルモルトで、ノンカラー・ノンチルフィルター |
ウイスキーメーカーズ エディション | シングルモルト | 遊び心を持って自由な発想で造られるシングルモルト |
ザ ワン | ブレンデッド | レイクス蒸留所・スペイサイド・アイラのモルトウイスキーと、グレーンウイスキーがブレンドされたウイスキー |
個人的に注目したい「ウイスキーメーカーズ エディション」は、シリーズのコンセプトごとに味わいが大きく異なる魅力をもっています。
「遊び心」や「自由な発想」を存分に楽しめるシリーズで、ウイスキーの奥深さや味わいの豊富さとレイクス蒸留所の探究心が感じられます。
【レビュー】試飲した6種のウイスキー

セミナーで試飲した6種類のウイスキーの概要と、レビューを紹介します。
- ウイスキーメーカーズ リザーブ No.7(未発売)
- ウイスキーメーカーズ エディション カイロス
- ウイスキーメーカーズ エディション レスフェーベル
- ウイスキーメーカーズ エディション アイリス
- ザ ワン ファインブレンデッドウイスキー
- ザ ワン シェリーカスクフィニッシュ
ウイスキーメーカーズ リザーブ No.7(未発売)
ウイスキーメーカーズ リザーブはこれまでNo.1から6までが発売されており、今回試飲したNo.7は、まだ発売されていません。
リリースは早くても2023年9月とのことでした。
色の濃さ、オレンジやドライフルーツのようなフルーティーさとナッティさ、サンダルウッド、噛みごたえのあるようなうま味が特徴です。
アルコール度数は52%で、酒齢5~10年くらいの原酒が使用されているとのことでした。
【レビュー】
飲んでみるとびりびりとした刺激を感じ、非常に濃厚な味わいでした。香りが素晴らしく華やかで、シェリーカスク由来のおいしさが存分に味わえます。
加水すると一段と甘くなり、長くじっくり楽しめるシングルモルトでした。
同シリーズで現在発売している「ウイスキーメーカーズ リザーブ No.6」は、オロロソ・ペドロヒメネス・赤ワイン樽で熟成されており、エキゾチックなスパイシーさが魅力のシングルモルトです。
▼ウイスキーメーカーズ リザーブ No.6

ウイスキーメーカーズ エディション カイロス

ギリシャの街並みを想像して造られたのが、「ウイスキーメーカーズ エディション カイロス」です。
サラ・バージェス氏いわく「少しピリリとスパイスが効いていて、甘い雰囲気と、甘ったるい印象の夕日が沈んでいくような景色を想像していただければと思います」とのこと。
サンダルウッド、ココアパウダーのような粉っぽさ、甘いスパイス。
余韻は非常に長く、黒糖のような甘ったるさが続きます。
アルコール度数は46.6%。
【レビュー】
飲んでみるとハチミツの強い香りが感じられ、甘みはあるもののスパイシーな印象でした。ハーブ感も強く、時間が経つと徐々に黒糖っぽさが増します。
「ウイスキーメーカーズ リザーブ」とは全く違う味わいで、レイクス蒸留所の扱うフレーバーの幅広さが感じられました。
黒糖の素朴で濃厚な甘みが好きな方には、特におすすめです。
ウイスキーメーカーズ エディション レスフェーベル

レスフェーベル(resfeber)は、スウェーデン語で旅や冒険に出る前のワクワク感や高揚感を意味します。
赤ワイン樽とクリームシェリー樽の組み合わせで、複雑かつ非常に優しい味わいが体現されている穏やかなウイスキーです。
シェリー特有のパワフルさが抑えられているので、シェリーカスク初心者にもおすすめです。
アップルのような香り、キャラメル、スパイス、シェリー、アプリコット。
味わいはチェリー、ローズで、クリーミーな余韻と濃厚なスパイスを感じます。
アルコール度数は46.6%ありますが、柔らかい味わいのため刺激は感じにくいといえます。
【レビュー】
飲んでみると非常に優しい味わいで、焼きリンゴのようなジューシーな甘みに驚きました。
ハーブとスパイスが混ざりあった、これまであまり嗅いだことのない香りで、非常に個性的なウイスキーです。
ジューシーな甘み、個性的な味わいを試したい方におすすめです。
ウイスキーメーカーズ エディション アイリス

前任のウイスキーメーカーだったダヴァル・ガンディー氏が手がけた、ウイスキーメーカーズ エディションです。
自身の祖国インドの記憶を探ってヒマラヤを訪れ、その際に得たインスピレーションから造られたそうです。
花や果物を想起させるウイスキーで、花やトロピカルフルーツのイメージをパッケージにも映しています。
アメリカンオークとフレンチオークを組み合わせており、バーボン樽・シェリー樽を使用。
濃いリンゴ・フレッシュな果物の味わいが楽しめ、熟れた洋ナシ、バラの香りも感じられます。
アルコール度数は高く、56%です。
【レビュー】
「アイリス」と名付けられただけあって、非常にフローラルで華やかな香りでした。
バラやリンゴの香り、甘さの後に感じるアルコールの刺激とのバランスが心地よいウイスキーです。
フローラルなウイスキーが好きな方は、きっと好みに合うと思います。

ザ ワン ファインブレンデッドウイスキー

「唯一無二」を意味する「ザ ワン(The One)」は、レイクスのモルト原酒をキーモルトにしつつ、スペイサイド、アイラのスコッチモルトとグレーンウイスキーをブレンドしたブレンデッドウイスキーです。
ノンカラー・ノンチルフィルターで、味わいはクリアでソフトといえるでしょう。
【レビュー】
一口含むと、ミルクチョコレートのような強い甘みが広がりました。ほんのりとスモーキーさが感じられるものの、糖蜜やカスタード、バニラのような甘みが印象的です。
ナチュラルカラーならではの美しい黄金色で、目で見ても楽しめるウイスキーです。
甘みのあるウイスキーをじっくり味わいたい方は、試してみてはいかがでしょうか。

ザ ワン シェリーカスクフィニッシュ

「ザ ワン シェリーカスクフィニッシュ」は、「ザ ワン ファインブレンデッドウイスキー」をヨーロピアンオークのオロロソシェリー樽、ペドロヒメネスシェリー樽で後熟させたウイスキーです。
非常に濃厚でリッチな味わいで、シェリー樽由来のフルーティーさ、ウッディさが感じられます。
画像に映っているアワードは、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション 2023」で獲得した金賞です。
【レビュー】
香りがフレッシュで、涼しげな印象の上品なウイスキーです。
ダークチョコやナッツのような重厚な味わいの中に果実味があふれていて、これぞシェリー樽のウイスキーという印象でした。
シェリー樽のウイスキーが好きな方に、ぜひ試してほしいウイスキーです。

最後に

イングランドにあるレイクス蒸留所では、エレヴァージュや長時間の発酵を用いてさまざまなウイスキーを製造しています。
味のバリエーションは非常に豊富で、ウイスキーメーカーの熟練さや情熱、探究心がウイスキーの味わいから強く感じられます。
サラ・バージェス氏は今後もとどまることなくウイスキーの味を追求し、日本のミズナラといったさまざまな樽や酵母を試していくと語ってくれました。
レイクス蒸留所からどのようなウイスキーが生まれるのか、今後も注目したいところです。