ウイスキーの種類のひとつである「モルトウイスキー」。
「シングルモルト」もよく聞く名称ですが、モルトウイスキーと定義が異なることをご存じでしょうか。
今回は、混同しがちなこの2つの違いや、世界に認められた日本のモルトウイスキーについてわかりやすく解説します。
この記事の監修者
大中 ヨシ
都内勤務のバーテンダー兼ウイスキー専門のwebライター。ウイスキープロフェッショナル資格所有。休日には蒸留所や温泉を巡っています。普段はジャパニーズやスコッチを愛飲。推し蒸留所はキルホーマンです。
モルトウイスキーとは?シングルモルトの定義も解説
モルトウイスキーは、大麦麦芽を使って造られたウイスキーのことです。
ここでは、他の種類のウイスキーとの違いや、独自の製法についてご紹介します。
「モルト」とは
モルトウイスキーの「モルト」とは「麦芽」のこと。
麦芽は大麦を発芽させたものです。
なぜ、わざわざ発芽させるかというと、糖化のために必要な酵素を大麦自身の中につくらせ、大麦に含まれるでんぷんを糖化させるため。
糖化していないでんぷんに酵母を加えても、アルコールは作られません。
でんぷんを分解してアルコールにするためには、まずでんぷんを糖化することが必要です。
大麦を発芽させることで、酵母による発酵ができるようになります。
【モルトウイスキー】味や香りの特徴
モルトウイスキーの味や香りは、銘柄によって大きく異なります。
味や香りの決め手になるのは、水と樽です。
詳しく見てみましょう。
水
仕込み水の水質は、ウイスキーを製造する国によって違います。
日本やスコットランドで使われるのは、ミネラル分が少ない軟水です。
一方、アメリカやスコットランドを除くヨーロッパでは、ミネラル分の多い硬水が主流。
軟水を使ったウイスキーはやわらかな口当たり、硬水を使ったものはしっかりと飲みごたえがあるのが特徴です。
樽
貯蔵に使う樽によって味わいが変わるのも、特徴のひとつ。
モルトウイスキーの貯蔵に使うオーク樽は、バーボンやシェリーなどを貯蔵していた樽を再利用したものです。
そのため、前に貯蔵していた酒の種類によって、モルトウイスキーの香りに違いが出てくるのです。
また、日本のオーク材「ミズナラ」でできた樽で貯蔵されたウイスキーは、独特の香木のような香りがすることで知られています。
モルトウイスキーの定義
「モルトウイスキー」と一言で言っても、国によって定義は異なります。
日本やスコットランド・アイルランドでは、モルトのみを使用した「モルト100%」のウイスキーが「モルトウイスキー」です。
トウモロコシや小麦も加えられたものは、「グレーンウイスキー」として区別されています。
一方アメリカでは、「モルト51%以上」であれば「モルトウイスキー」と名乗ることが可能です。
シングルモルトと他のモルトウイスキーとの違い
特に初心者の方が困ってしまいがちな、シングルモルトと他のモルトウイスキーとの違いを見てみましょう。
まず簡単に、違いを以下の表にまとめました。
シングルモルトウイスキー | ブレンデッドモルトウイスキー | ブレンデッドウイスキー | シングルグレーンウイスキー | ブレンデッドグレーンウイスキー |
単一の蒸留所のモルト | 複数蒸留所のモルトをブレンド | 複数蒸留所のモルトとグレーンをブレンド | 単一の蒸留所のグレーン | 複数蒸留所のグレーンをブレンド |
「シングルモルト」とは、1か所の蒸溜所で造られたウイスキーを瓶詰めしたもの。
蒸溜所の特徴がダイレクトに表れることから、飲み比べをしたいウイスキー愛好家に人気です。
一方で、貯蔵に使用する樽や蒸溜所周辺の水質によって風味が異なるため、一般的には数種類のモルトウイスキーをブレンドして、味や香りを整えています。
上記は「ブレンデッドモルトウイスキー」と呼ばれ、区別されます。
世界に認められた日本のモルトウイスキー9選
日本でもさまざまな銘柄のモルトウイスキーが造られており、世界からも注目されています。
こだわりの水や特徴的な熟成樽など、それぞれの銘柄の違いを知り、好みの1本を見つけるのも、楽しみのひとつです。
日本のシングルモルトウイスキー
伝統的なシングルモルトウイスキーの産地としてはスコットランドがよく知られていますが、近年日本のウイスキーへの注目が高まっています。
注目の日本のシングルモルト5つをご紹介します。
山崎ノンエイジ
アルコール度数:43%
ウイスキーの重要な情報である熟成年数をあえて表示しない「ノンエイジウイスキー」。
サントリーのウイスキーの代表格「山崎」もノンエイジウイスキーを手がけています。
サントリーのチーフブレンダー福與氏によれば、年数を表示しないことで、使用する原酒の自由度が高まり、幅広い味の表現が可能になります。
「山崎」の伝統であるミズナラ樽で熟成された原酒と、シェリーやワイン樽熟成の原酒が合わさり、華やかな香りと甘くなめらかな味わいが特徴です。
白州ノンエイジ
アルコール度数:43%
山梨県北杜市の森の中にあり、清流に囲まれた白州蒸溜所で造られるサントリーの「白州」。
さまざまな香味の原酒を造りわけ、バランス良くブレンドすることで「白州」は生まれます。
すだちやミントを思わせる、爽やかで軽快な味わいの後に、ほのかにスモーキーな甘みを感じられるウイスキーです。
参考:サントリー 白州とは
余市ノンエイジ
アルコール度数:45%
スコットランドでウイスキー造りを学んだ竹鶴政孝氏が、1934年に北海道余市に創設した余市蒸溜所。
ニッカウヰスキーの「余市ノンエイジ」の原酒は、世界でもめずらしい「石炭直火蒸溜」により造られます。
重厚で力強い味わい、しっかりとしたピート香が特徴のウイスキーです。
参考:ニッカウヰスキー
宮城峡ノンエイジ
アルコール度数:45%
仙台の西にある、2つの清流に囲まれた場所にあるニッカウヰスキーの宮城峡蒸溜所。
「宮城峡ノンエイジ」の原酒は「余市」とは異なる華やかな香りを出すため、スチームによる「間接蒸溜」で造られます。
りんごや洋梨のようなフルーティーさ、甘く華やかな香りと、穏やかなピート香が感じられるウイスキーです。
参考:ニッカウヰスキー
イチローズモルト 秩父ザ・ファーストテン
アルコール度数:50.5%
2008年に埼玉県秩父で稼働を開始した秩父蒸溜所で造られたシングルモルト。
蒸溜所建設から「初めての10年熟成」のウイスキーとして、2020年に5000本限定でボトリングされたのが「秩父ザ・ファーストテン」です。
バニラやバーボン樽の甘い香りと、柑橘系のフルーティーな味わいが特徴。
限定品のため、入手が難しくなっています。
日本のブレンデッドモルトウイスキー
日本のブレンデッドモルトウイスキーも見逃せません。
小規模な蒸溜所のウイスキーも海外のコンペティションで賞賛されています。
特にオススメの銘柄4つを見ていきましょう。
竹鶴ピュアモルト
アルコール度数:43%
モルトのみを使ったウイスキーで飲みやすさを追求したブレンデッドモルトウイスキーです。
ニッカウヰスキーの余市蒸溜所の原酒と宮城峡蒸溜所の原酒を、長年に渡りブレンダーが研究してきたバランスでブレンドしています。
りんごや杏のような甘い香りと、重厚なモルトのコクが感じられる味わいが特徴です。
イチローズモルト ミズナラウッドリザーブ
アルコール度数:46%
2010年のワールド・ウイスキー・アワードにおいて、熟成年数の表記なしのカテゴリーで「ベストジャパニーズ・ブレンデッドモルト」を受賞した、ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所の銘柄です。
複数の蒸溜所のモルトウイスキーをブレンドし、ミズナラ樽で再熟成させています。
果実やチョコレートのフレーバー、スモーキーな風味が魅力です。
イチローズモルト ワインウッドリザーブ
アルコール度数:46%
こちらも秩父蒸溜所のブレンデッドモルトウイスキー。
複数の蒸溜所のウイスキーをブレンドした後、勝沼のワイナリーで使用されていたワイン樽で再熟成しています。
オレンジピールやビターチョコレートが混ざった複雑な味わいと、フルーティーな香りが特徴です。
イチローズモルト ダブルディスティラリーズ
アルコール度数:46%
「2つの蒸溜所」という意味の「ダブルディスティラリーズ」。
秩父蒸溜所の創業者、肥土伊知郎氏の父が経営していた「東亜酒造」は経営不振により、所有していた羽生蒸溜所を2000年に閉鎖しています。
この羽生蒸溜所で造られていた原酒と、2008年に開かれた秩父蒸溜所の原酒をブレンドしたのが、ウイスキー「イチローズモルト ダブルディスティラリーズ」です。
その後、羽生蒸溜所は2021年2月に製造を再開。
閉鎖以前の羽生蒸溜所の原酒がなくなり次第、終売になる可能性が高いと言われています。
ウイスキーの原酒は、冷却すると白濁してしまうため、通常はウイスキーを冷却し析出した成分をろ過します。
この「ダブルディスティラリーズ」は、あえて冷却を行わず、麦芽や樽由来の成分を残しているため原酒の個性がより強く出ている点が特徴的。
シナモンや生姜のようなスパイシーさ、フルーティーな味わいと、バターのようななめらかさのある複雑な風味のウイスキーです。
モルトウイスキーの選び方
産地や水、樽、さらには蒸溜所によって特徴が異なるモルトウイスキー。
自分に合ったウイスキーを見つける方法を解説します。
①産地で選ぶ
代表的なモルトウイスキーの産地であるスコットランドでは、地域によってウイスキーの特徴が違います。
・スペイサイド
・ハイランド
・アイラ
・ローランド
・キャンベルタウン
・アイランズ
また、スコットランドに加え、アイルランド、日本産のウイスキーも特徴的です。
さっそく、大麦100%のモルトウイスキーの各産地を比較してみましょう。
スペイサイド
スコットランド北部の蒸溜所が集中しているエリアで、原料の大麦の産地です。
「ザ・マッカラン」「グレンフィディック」など有名な銘柄を生んだ産地でもあります。
スペイサイドのウイスキーは花のような香りが感じられ、味と香りのバランスが良いのが特徴です。
ハイランド
こちらもスコットランド北部の地域で、スコットランドの1/3の蒸溜所が集まるエリア。
スッキリしたものから濃厚なものまで、それぞれの蒸溜所の特徴が色濃く出るのがこの地域の特色です。
アイラ
スコットランドの西側に位置する島の名前で、「ピート」という海藻類や植物が堆積し炭化した泥炭に厚く覆われたエリア。
ここで製造されたウイスキーは「アイラウイスキー」と呼ばれます。
強いピート香とスモーキーな味が特徴です。
ローランド
ハイランドの南、スコットランドの南部の地域です。
かつては蒸溜所が少ないエリアでしたが、昨今のウイスキーブームにより蒸溜所が増加。
グレーンウイスキーの産地として知られていますが、一部でシングルモルトウイスキーを製造するところもあります。
キャンベルタウン
キャンベルタウンは、スコットランド西部のキンタイア半島の小さな町。
かつては30以上の蒸溜所があったシングルモルトの一大産地でしたが、現在は3つまで減少しています。
この地域のウイスキーは甘くクリーミーで、塩っぽさも感じられる、独特な味わいが特徴です。
アイランズ
スコットランドの島々のうち、アイラを除いた島の総称である「アイランズ」。
オークニー諸島やスカイ島・ジュラ島・アラン島などが特に有名な産地です。
それぞれの島ごとの個性的な味わいがあります。
アイルランド
スコットランドの南、アイルランドもウイスキーの産地として知られています。
特に「ブッシュミルズ蒸溜所」や「ティーリング蒸溜所」ではシングルモルトの生産が盛んで、ボトルも購入しやすい価格帯です。
シングルモルトウイスキーも造られていますが「ポットスチルウイスキー」という原料に大麦麦芽と未発芽大麦を使用するアイルランドの伝統的なウイスキーがあります。
そのため、同社の製品にはブレンデッドウイスキーやポットスチルウイスキーなどもあります。
シングルモルトをご購入の際にはお気を付けください。
日本
近年世界的に注目を集めているジャパニーズウイスキー。
スコッチウイスキーの製造法をベースに日本人の舌に合うよう造られており、飲みやすいのが特徴です。
海外の品評会などでも賞賛され、蒸溜所の建設が相次いでいます。
②熟成樽で選ぶ
モルトウイスキーを熟成・貯蔵する樽は、他の酒に使っていた樽を再利用しています。
樽を作る木材の特徴に加え、前にどの酒が入っていたかによって味や香りに違いが出る点が特徴的です。
シェリー樽
スパニッシュオークや、アメリカンオークで作られ、ワインの一種であるシェリー酒の貯蔵に使われた樽を使って、ウイスキーを熟成させます。
高級銘柄によく使われる樽と言われており、濃い色が特徴。
また、コーヒーのような苦味、ドライフルーツやチョコレートのような香りが魅力のウイスキーです。
バーボン樽
アメリカンホワイトオーク材の樽で、バーボンを熟成した後の樽です。
バーボンウイスキーの定義は「新樽で熟成すること」。
1回限りしか使わない樽をモルトウイスキーの熟成に再利用しており、今では最も一般的な熟成方法のひとつになっています。
モルトウイスキーの熟成では樽を何度も再利用するため、その回数によって風味が異なるのが特徴です。
バーボンの製造に使った後の1回目の熟成ではバーボンの影響が強く出て、ハチミツのような甘さが感じられるウイスキーが味わえます。
③熟成年数で選ぶ
樽での熟成期間や、環境によって味わいに変化が出ます。
一般的には10〜12年が標準の熟成期間なので、初めて飲む銘柄であれば10〜12年のものを選ぶのがオススメです。
熟成期間が長いほど、樽由来の味わいや香りが強くなり、芳醇な香りを楽しめます。
同じ銘柄で熟成期間が異なるものを飲み比べするのも、風味が変わって楽しいですね。
まとめ
各地域や製造方法の特徴が出ている銘柄が多く、知れば知るほど奥が深いモルトウイスキー。
伝統的なスコットランドのウイスキーや、近年人気を集めている日本のウイスキーなど、歴史や経緯などを知ると、よりウイスキーを選ぶ楽しみが増えますね。