2023年2月28日、明治屋がサゼラック社のマスターブレンダーであるドリュー・メイヴィル氏を講師に迎え、ウイスキーセミナーと試飲会を開催しました。
マスターブレンダーの話を直接聞けるぜいたくなセミナーで、試飲会では新作の「アーリータイムズ ゴールドラベル」や、希少な「パピー・ヴァン・ウィンクル 15年」といったバーボンをテイスティングしました。
今回は、セミナーに参加したWhiskeenライターが、イベント内容と試飲したバーボン5種を詳しく紹介します。
「ウイスキーセミナーや試飲会に興味がある」「新作バーボンや希少なバーボンを知りたい」という方は、ぜひ参考にしてください。
明治屋×サゼラック社のセミナー内容
セミナーはドリュー・メイヴィル氏の自己紹介から始まり、「バーボンの定義」「サゼラック社について」「プロとしてのテイスティングの仕方」といった内容が語られました。
セミナー中に5種のバーボンをテイスティングしながら、銘柄の解説やバッファロートレース蒸留所に関する説明を聞き、最後に「質疑応答」を行って、1時間ほどでセミナーは終了。
セミナー後は、明治屋が扱っているウイスキーやスピリッツ、リキュールなどの試飲会が催されました。
サゼラック社のマスター ブレンダー、ドリュー・メイヴィル氏
講師はサゼラック社のマスター ブレンダー、ドリュー・メイヴィル氏です。
セミナー冒頭で、自らの経歴や仕事について話してくれました。
ドリュー・メイヴィル氏の経歴
ドリュー・メイヴィル氏は、今は売却されてしまったシーグラム社の最後のマスターブレンダーです。
シーグラム社には23年勤務、その後はディアジオ社に2年、そして2004年からサゼラック社に入社し、マスターブレンダーを務めています。
マスターブレンダーの仕事とは
マスターブレンダーの2つの仕事について、メイヴィル氏は以下のように話してくれました。
「1つ目は、商品独自のフレーバーを確実に作り出すことです。2つ目は、穀物の種類や状態、年、樽によって原酒が変わっても、最終的に均一性・持続性・連続性を担保し、テイスティングのプロファイルを同じ形にすることです。その責任がマスターブレンダーにはあります。」
また、マスターディスティラーとマスターブレンダーの違いについて、「マスターディスティラーの責任下にあるのは、穀物を発酵させて蒸留させ、樽詰めして倉庫に入れるまでです。その後にブレンドするのが、マスターブレンダーです。」と解説してくれました。
バーボンについて
自己紹介が終わると、メイヴィル氏はサゼラック社について「バッファロートレースの親会社で、世界各国で事業展開している。」と説明し、バーボンの解説に移りました。
「バーボンは、新しいオークの新樽で熟成させなければいけません。新樽でなければいけないというところが非常に重要です。新樽であるからこそ、液体のフレーバーに対して一番大きなインパクト、影響を与えるのです。」とメイヴィル氏。
それから原料のトウモロコシ、ライ麦、麦芽の3つの穀物を次のように説明してくれました。
「穀物の成分は、51%以上がトウモロコシでなければバーボンとは呼べません。トウモロコシを入れることで、甘い、果実味に富んだフレーバーが生まれます。」
「2番目に多く入っているのはライ麦です。スパイシーで胡椒のようなアロマになるのがライ麦の特徴です。」
「3つ目の大きな材料は麦芽、モルトです。大麦の麦芽は、発酵時に酵素として役立ちます。」
次の説明は、ライ麦比率の高いバーボンと小麦比率の高いバーボンについて。
「全体の95%のバーボンが、ライ麦比率の高いバーボンです。」
「残りの5%はライ麦の代わりに小麦を使っています。小麦を使うとライ麦のスパイシーな、胡椒のような味わいはなくなり、代わりにバーボンの甘さや果実味が補強され、やわらかな丸みのあるバーボンになります。」
原料について一通り説明すると、「バーボン造りでとても重要なのは時間です。ゆっくりと流れてゆっくりと熟成する時間です。」とメイヴィル氏。
最後にバーボンの定義をおさらいして説明し、バーボンの説明を終えました。
バッファロートレース蒸留所について
「バッファロートレース蒸留所は1770年代からウイスキーを造り始めました。洪水のときも、第一次・第二次世界大戦のときも、禁酒法時代のときも、コロナ禍においても、さまざまな困難な時期にも絶えず造り続けています。」とメイヴィル氏。
禁酒法時代は医療目的という名の下に造り続け、コロナ禍はウイスキー造りを続けると共に消毒剤を作って病院に配ったそうです。
名前が「バッファロートレース蒸留所」になったのは1999年のことで、野生のバッファローが蒸留所付近に獣道を作ったことから“バッファローの通り道”という名が付けられました。
バッファロートレース蒸留所の長い歴史を説明した後、メイヴィル氏は「私たちのゴールは全く変わりません。世界で最高のウイスキーを造るというのが目標です。」と続けます。
そして「私たちはファインバーボンを造ります。利益があるときも、損失があるときでさえも、いつでも素晴らしいファインバーボンを造り続けます。」と語ってくれました。
バッファロートレース蒸留所は多くの銘柄を製造しており、メイヴィル氏は「レシピ・ツリー」というユニークな図を見せてくれました。
「ファミリーレシピのツリー、木と呼んでいます。一番下にレシピの種類があって、そこにどんなブランドが属しているか、赤い字で書いてあります。」
「私たちの製品には多様なおいしさがあり、通常よりも長い熟成期間を設けています。レシピ・ツリーにあるように、レシピには種類があり、それぞれの特徴を作り出すことができます。」とメイヴィル氏。
その後、穀物を蒸留所に運び入れるところからバーボンを製造する過程を説明してくれました。
ケンタッキー州の気候は寒暖差が大きく、バーボンの熟成に適した気候なのだそうです。
ブレンドやボトリングの説明時は「サンプルのテイスティングは私がやっておりますけれど、非常に時間がかかります。出来上がったものを瓶詰めする際、プレミアムなものは手詰めでボトリングし、大きなブランドは高速のボトリングをします。」と教えてくれました。
テイスティングの仕方
プロのテイスティングの仕方として、メイヴィル氏は次のように解説してくれました。
【ノージング】
- 最初に来る香り(トップノート)を確かめる
- グラスを回して手のひらで温める(それを「するな」という人もいるので、各自の判断で)
- 鼻筋のところに香りが立ち上るように、少し唇を付けるような形でノージングする
【テイスティング】
- 1回口に含んで口蓋全体をならした後、1分後に繰り返す
- 口蓋全体に液体を回し、ウイスキーの持つさまざまな味わいや表情を感じとる
「最初にすする一口目は、口をバーボンにならすということです。そのあとの一口で実際のバーボンの持つ特徴が味わいとして感じられます。」とのことでした。
試飲した5種のバーボン
セミナーで試飲したバーボンは、以下の5種類です。
- アーリータイムズ ゴールドラベル
- バッファロートレース
- スタッグ
- ジョージ・T・スタッグ
- パピー・ヴァン・ウィンクル 15年
銘柄の説明と、試飲した感想を紹介します。
アーリータイムズ ゴールドラベル
「アーリータイムズ ゴールドラベル」は、試飲会当日がデビュー日という新作のバーボン。
メイヴィル氏によると「『アーリータイムズ ゴールドラベル』はケンタッキーのストレートバーボンウイスキーで、わが社独自の技術と酵母を使っています。私たちのバーボンを情熱的に愛する方たち向けたもので、ストレートでも、オンザロックでもハイボールでも、どのようなオケージョンでも完璧に楽しめる飲み物です。」とのこと。
アルコール度数は40%、トウモロコシ比率は79%です。
試飲するとバニラ香、アプリコットをはじめとする果実香、ライ麦由来のスパイシーさが感じられ、非常に完成度の高いバーボンでした。
時間がたって空気に触れると甘みが増し、オールドバーボンのような麦々しい甘さが感じられます。
加水してトワイスアップにするとますます甘くなり、これまで飲んだ「アーリータイムズ」の中でも群を抜いておいしいと感じました。
構成原酒の熟成年数が気になり尋ねたのですが、そこは「企業秘密」とのことでした。
バッファロートレース
バッファロートレース蒸留所のフラッグシップ・バーボンで、1999年にリリースされました。
原酒の熟成年数に関して、メイヴィル氏は「大体、8年ということを念頭に入れて造り続けております。」と教えてくれました。
レシピは、「ジョージ・T・スタッグ」や「イーグル・レア」と同じ「RYE MASH ♯1」というマッシュビルを採用しているそうです。
試飲するとバニラ、桃のような甘い果物、ラムといった、甘い香りが感じられました。
あんずや焼き菓子、キャラメルの甘さもあり、刺激の奥には、革、アニスといったニュアンスも。
甘さ、スパイシーさ、樽のウッディな風味といったものがバランスよく感じられるおいしいバーボンでした。
スタッグ
「スタッグ」は今春発売予定のケンタッキーストレートバーボンで、ノーカット・ノンチルフィルター、アルコール度数は65.5%です。
「はじめに警告しておきます。アルコール度数がとても高いです。爆発のような刺激ですから、最初の一口はほんのわずかだけ、口に入れてください。アルコール度数が高いために、非常に強い、大胆なフレーバーが感じられます。」とメイヴィル氏。
香りをかぐと目にアルコールの刺激を感じ、飲む前から度数の高さが伝わってきます。
試飲一口目は、舌がびりびりする感覚があります。
慣れてくると、ダークチョコレートの品のよい甘さ、スパイシーさを感じました。
余韻は長く、力強いバーボンの風味がじっくり楽しめるクオリティーの高いウイスキーです。
ジョージ・T・スタッグ
「ジョージ・T・スタッグ」はバッファロートレース アンティークコレクションのひとつで、日本では今春発売予定です。
アルコール度数は69.4%で、メイヴィル氏は「生産数が限定的で、アメリカでもなかなか手に入らないバーボンです。これは2007年に春に蒸留され、15年間と5カ月熟成し、2022年にボトリングされました。」と解説。
試飲すると、ハチミツ、バニラ、シナモン、ダークチョコといった複数のフレーバーが次々と押し寄せてきました。
スパイシーさ、レザー、コーヒー豆のような風味も感じられ、余韻が途切れません。
口当たりも大変滑らかでクリーミーな、非常においしいバーボンでした。
アメリカ市場では大体2,000ドルから3,000ドルとのことで、日本円にすると27万~40万円(※2023年2月時点で換算)という高級バーボン。
日本発売時の価格はオープンプライスですが、どのくらいの価格で販売されるのか気になるところです。
パピー・ヴァン・ウィンクル 15年
ライ麦の代わりに小麦が使われているバーボンで、長期熟成バーボンとしても有名な銘柄が「ヴァン・ウィンクル」です。
世界でもっとも手に入らないバーボンのひとつといわれています。
「パピー・ヴァン・ウィンクル 15年」は、ケンタッキー州において新樽で15年間熟成した小麦バーボンで、アルコール度数は53.5%。日本では今春発売予定です。
メイヴィル氏は「ライ麦が入っていませんから、胡椒のようなスパイシーさはありません。やわらかなキャンディコーン、バター、バニラも感じられますし、キャラメル、スパイスの香りもいたします。ダークチョコレート、皮の色の濃いフルーツ、レザー、革のような味わいもあります。」と説明。
さらに、「15年間触れていた樽からくる甘さや香りも感じられます。最後はシナモンのような余韻があります。」と解説してくれました。
試飲すると、バターのような濃厚さはあるものの、ライ麦がないためか雑味のないクリーンさも感じました。
余韻は非常に長く、樽香、果実香がいつまでも続きます。
「パピー・ヴァン・ウィンクル 15年」はオープンプライスです。
同シリーズの「オールド・リップ・ヴァン・ウィンクル 10年」の参考小売価格は17万8,000円(税抜)なので、それよりも高額で販売されることが予想されます。
さいごに
バーボンや蒸留所の解説、5種のバーボンのテイスティングと非常に密度の大きい、充実した内容のセミナーでした。
バーボンやバッファロートレース蒸留所の理解が深まり、テイスティングのやり方も勉強になりました。
書籍でも十分に学べることはありますが、作り手から実際に話を聞くのは強いインパクトがあります。
こういったセミナーには、今後も積極的に参加したいと感じました。
試飲した5種のバーボンはいずれもクオリティーが高く、高額なものもありますがどれも自信を持ってお薦めできます。
おいしいバーボンを探している方は、ぜひ試してみてください。