「スプリングバンク」は、スコットランド南部のキャンベルタウンにあるスプリングバンク蒸留所で造られています。
世界的にウイスキーの人気が高まっている中、品薄で手に入りにくいシングルモルトウイスキーとして有名で、近年では定価よりも高値で取引されています。
多くのウイスキー愛好家たちが手に入れたいと望む理由はどこにあるのでしょうか。
この記事では人気の理由を、3つのポイントにまとめて解説します。
また、「スプリングバンク 10年」のようなスモーキーさ・ブリニーさを味わえる、手に入りやすいウイスキーもご紹介します。
この記事の監修者
「スプリングバンク 10年」が愛される理由1. 香りと味
「スプリングバンク」は甘い香りと、塩辛い味(ブリニー)に特徴があります。
奥深い味わいを項目ごとに紹介します。
香り
「スプリングバンク」の一番の特徴は、「モルトの香水」と称されるほどの豊かな香りです。
梨やレモンのフルーティーさと、バニラや、焼き菓子のような甘い香り。
その中に、スモーキーさと潮風の雰囲気を感じます。
港町の雰囲気とフルーティーさが両立した香りは「さすが」と言いたくなるほどで、唯一無二の存在です。
味わい
ウイスキーでは海水のような塩辛い味わいを「ブリニー」と表現します。
実際に塩を添加しているわけではありません。「スプリングバンク 10年」は後味にピリッとした塩気を感じます。
シナモンやナツメグのようなスパイシーさと、ドライイチジクのさわやかな甘み、ほんのりバニラの気配もあり、塩味がより引き立ちます。
バターのようなコクと、トロッとしたオイリーな質感が、飲みごたえの満足度を高めてくれます。
「スプリングバンク 10年」は「ブリニー」が味わえるウイスキーの代表格といえるでしょう。
おすすめの飲み方
香りを楽しむには、まずはストレートをおすすめします。
ウイスキーに慣れていない方はロックにすると、口当たりがまろやかになって飲みやすくなります。
「スプリングバンク 10年」が愛される理由2. 妥協しない製造方法
スプリングバンク蒸留所は、原料となる麦芽の全てを自家製麦でまかなっている、とても珍しい蒸留所です。
製麦(モルティング)や瓶詰め(ボトリング)は、外部の業者に委託する場合が一般的ですが、スプリングバンク蒸留所は製造に関わる全ての工程を自社内で行っています。
スプリングバンク蒸留所の、妥協を一切許さない製造方法をご紹介します。
伝統的な製造方法
フロアモルティング
スプリングバンク蒸留所は伝統的手法・製法を守り続けている蒸留所です。
非常に珍しい点は、自家製麦によって麦芽自給率100%を達成していること。
原料の麦を発芽させるために、伝統的なフロアモルティングを採用しています。
フロアモルティングとは、床に広げた大麦を数時間おきにシャベルでかき混ぜて酸素を送り込み、大麦の発芽を促す方法です。
この発芽を促す攪拌(かくはん)作業は機械で行うことが一般的ですが、フロアモルティングは全て手作業。そのため非常に手間がかかります。
5〜7日間かけて空気を送り込み、大麦が発芽したら乾燥作業に入ります。
最初の6時間はピートのみを燃やして乾燥、その後30時間熱風で乾燥させ、やっと麦芽(モルト)が完成します。
機器へのこだわり
伝統的なのは手法だけではありません。
糖化する際に使用するマッシュタン(糖化槽)は130年を超える年代物を使用。
発酵を行うウオッシュバック(発酵槽)は8世紀半ばから11世紀ごろに船材として使われていた北欧産カラマツ製を使用するなど、昔ながらの機器を現在でも使い続けています。
こういった使用する道具ひとつとっても、伝統を大切にする「スプリングバンク」らしさを感じられます。
2.5回の蒸留
蒸留回数も特徴的です。
多くのスコッチは初留と再留の計2回の蒸留が基本ですが、「スプリングバンク」は2.5回蒸留。
これはとても複雑な仕組みで、まず初留で得られた留液(ローワイン)の一部をとっておき、再留で得られた留液にそのローワインを混ぜて蒸留します。
これにより2回蒸留の液体と3回蒸留した液体が混ざるので、2.5回蒸留というわけです。
この2.5回蒸留は「スプリングバンク」のユニークな方法です。
実はスプリングバンク蒸留所では、蒸留回数を変化させ、タイプの違うウイスキーを醸造しています。
「スプリングバンク3兄弟」とは?
スプリングバンク蒸留所では、主力となる「スプリングバンク」だけでなく「ロングロウ」「ヘーゼルバーン」と、タイプの違う3種類のウイスキーを製造しています。
この3種類は「スプリングバンク3兄弟」という通称でウイスキー愛好家たちから親しまれています。
- 「ロングロウ」は2回蒸留。ピート感が強いのが特徴です。
- 「ヘーゼルバーン」は3回蒸留。ノンピートで濃厚な甘みが特徴です。
蒸留所の技術力が高いからこそ、個性の異なる3種類の銘柄を製造できるのです。
「スプリングバンク 10年」が愛される理由3. 歴史
スプリングバンク蒸留所があるキャンベルタウンは、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏が修行のために訪れるほど、ウイスキー業で非常に栄えていました。
ピーク時には30を超える蒸留所が存在していたそうです。
しかし、アメリカで禁酒法が発令されたことで事態が変化します。
アメリカへの販路がなくなったことによる経営悪化に、密造酒業者や違法なバーが増えたことでウイスキーへの信頼が少なくなっていったことが追い打ちをかけ、多くの蒸留所が閉鎖に追いやられました。
そんな中、スプリングバンク蒸留所は時代に飲み込まれず高品質なウイスキー造りを続けた結果、生き残ることができたのです。
現在キャンベルタウン内で残っている蒸留所は「スプリングバンク」「グレンスコシア」「グレンガイル」の3か所のみ
蒸留所としてブレずに信念を貫いてきた歴史が、「かっこいい」と支持を集めています。
「スプリングバンク 10年」の定価
アルコール度数:46.0% 700mL
メーカー希望小売価格:8,900円(税別)
「スプリングバンク 10年」の販売元であるウィスク・イーのサイトを見ると、「定価」はなく、代わりに「メーカー希望小売価格」が表記されています。
現在「スプリングバンク」は品薄のため高騰していて、販売元の参考小売価格よりも2倍以上の価格で販売されているのが現状です。
「スプリングバンク」の種類
スプリングバンク 12年 カスクストレングス
アルコール度数:55.3% 700mL
定期的にリリースされる数量限定ボトルです。
カスクストレングスとは、樽のままのアルコール度数という意味で、一切加水していないためにアルコール度数が高いのが特徴です。
ボトリングされる樽によってアルコール度数が変わるので、リリースされた年によってはアルコール度数が若干異なることも。だいたい55%前後で、アルコール度数は高めです。
2021年リリースのボトルはバーボン樽の原酒65%と、シェリー樽の原酒35%が使用されています。
販売元HPによると、
香りは花蜜のように甘くフローラルで、ライムやグレープフルーツ、パイナップルの華やかなアロマやオーク、砂糖漬けのジンジャー、リコリスが広がります。味わいはオイリーでリッチ。スパイスの効いたビスケット、塩キャラメル、ショートケーキ。ハモンイベリコを巻いたプレッツェル、スプリングバンクらしいスモークが続きます。フィニッシュはソルティなダークチョコや挽きたてのコーヒーが現れます
“スプリングバンク 12年 カスクストレングス | Explore our craft philosophy”より
とのこと。
リッチでオイリーな味わいで、あらゆるウイスキーサイトで絶賛されている1本です。
スプリングバンク 15年
アルコール度数:46% 700mL
メーカー希望小売価格:1万2,500円(税別)
(※リリースされた年によってアルコール度数に若干の違いあり)
シェリー樽で熟成させたぜいたくなボトルです。
ダークチョコレートやブラウンシュガーのようなまろやかな甘みと、キャンベルタウンモルトらしいブリニーさが見事に調和しています。
食後のデザートウイスキーとしておすすめです。
販売元ウィスク・イーの「メーカー希望小売価格」は1万2,500円ですが、現在3,4倍ほどの価格で取引されています。
スプリングバンク 18年
アルコール度数:46% 700mL
シェリー樽で18年以上熟成させた原酒を8割使用した、とてもリッチなボトルです。
「スプリングバンク 15年」と比べると、よりコクと甘みが増しています。
柑橘系のさわやかな香りと、バニラ、レーズンやドライアプリコットのような深みがある香りとが混ざり合います。
余韻も長く潮の気配も感じられますので、ぜひストレートでお楽しみください。
スプリングバンク 21年
アルコール度数:49.5% 700mL
「スプリングバンク 21年」は、1990年代にリリースされていた定番商品で、多くのウイスキー愛好家たちがこぞって絶賛していた伝説のウイスキーです。2012年から年に1回、ごく少量のみ生産が再開されているとてもレアなボトルです。
2017年に販売されたボトルではバーボン、シェリー、ポート、ラムの4種の樽を使用しています。
「スプリングバンク 21年」で4種の樽を使用したのはこのボトルが初めての試みだそうです。
スプリングバンク 25年
アルコール度数:46% 700mL
2020年にリリースされた「スプリングバンク 25年」。
なんと日本へは120本しか入荷していない、とにかく貴重なボトルです。
シェリー樽とバーボン樽、それぞれの原酒を半分ずつ使用しています。
複雑な香りと味わいは感動ものです。
スプリングバンクが品薄なのは、供給量が少ないから
「スプリングバンク」は近年特に品薄の傾向があり、市場にはあまり出回っていません。
製法にこだわりがあるため大量生産できず、需要に対して供給量が少ないためです。
市場に出ても、人気の高いシングルモルトなのですぐに売り切れてしまい、特に長期熟成の銘柄はめったにお目にかかれません。
見掛けたとしても希少価値が高いため、高額で販売されていることが多いでしょう。
「スプリングバンク」が見つからない場合、Barで飲んでみるのはいかがでしょうか。
人気の高い銘柄なので仕入れているBarは多く、ワンショットから気軽に飲めるのでおすすめです。
「スプリングバンク 10年」好きにおすすめのウイスキー
品薄で手に入りにくい「スプリングバンク 10年」。
「スモーキーやブリニー感を試してみたい」
「スプリングバンクが好きだが、毎日飲む事を考えると予算オーバー」
という方に向けて、「スプリングバンク」のようなブリニーさやスモーキーさのあるウイスキーをご紹介します。
「スプリングバンク 10年」と違った味わいですが、気に入る銘柄が見つかるかもしれません。
豊かなピート香「ボウモア12年」
アルコール度数:40% 700mL
「ボウモア」はスコッチウイスキーの聖地、アイラ島の蒸留所で造られています。
原料の一部を自家製麦しており、「スプリングバンク」と同じようにフロアモルティングも行っています。
バランスに優れていて、ブリニーさとスモーキーさを感じます。
ハイボールにすれば、食事にもピッタリ。ロックやストレートもおすすめです。
ブリニーを体感「グレンスコシア キャンベルタウンハーバー」
アルコール度数:40% 700ml
「スプリングバンク」と同じキャンベルタウンにある蒸留所のシングルモルトです。
フルーティーさの中にピート香があり、「スプリングバンク」のような塩っぽさが感じられます。
甘みと塩気のバランスがよく、ブリニーを体感したい方におすすめです。
変わった塩気「トバモリー 12年」
アルコール度数:46.3% 700mL
プリニーさを感じるものの、ノンピートでフルーティー。
ピートを焚いている「スプリングバンク」とは違った塩気が感じられる、とても飲みやすいボトルです。
バニラやオレンジのような甘い香りですが、後味はスパイシーでさわやかです。
「あまじょっぱい」味わいが癖になる1本です。
最後に
ウイスキー愛好家たちの舌をうならせ続ける「スプリングバンク」を解説しました。
伝統を守り、一切妥協しないウイスキー造りを続けるエピソードは、飲む前からファンになってしまいそうですね。
港町らしさを感じる「スプリングバンク 10年」。見かけたらぜひ購入してみてください。