スコットランドのブレンデッドウイスキー「ティーチャーズ」のキーモルトとして知られている「アードモア」。
近年シングルモルトとしても注目を集めており、多彩な銘柄を誇るウイスキーでもあります。
今回は、「アードモア」について多様な樽種を使うこだわりの製法、香りや味わいの特徴をご紹介します。
この記事の監修者
大中 ヨシ
都内勤務のバーテンダー兼ウイスキー専門のwebライター。ウイスキープロフェッショナル資格所有。休日には蒸留所や温泉を巡っています。普段はジャパニーズやスコッチを愛飲。推し蒸留所はキルホーマンです。
「アードモア」とは
スコットランドのハイランドで生まれた「アードモア」。
シングルモルトとして知られるようになったのは、ごく最近です。
まずは「アードモア」のウイスキー造りに適した製造場所と、ユニークな歴史について解説します。
「アードモア」の製造場所
スコットランドのハイランド地方とスペイサイド地方の境界近く、ケネスモント近郊にある「アードモア蒸溜所」。
スペイサイドモルトとして紹介されることもありますが、蒸留所の職人は『ここはハイランドであり、ハイランドモルトだ』と断言します。
蒸留所の周辺は大麦の産地であり、良質な水もあるため、ウイスキー造りには最高の環境だといえます。
「アードモア」のシンボルは鷲(ワシ)。
ケネスモントの上空を舞う鷲は蒸留所の守り神とされており、ラベルには鷲とケネスモントの地図が描かれています。
参考:https://www.suntory.co.jp/whisky/ardmore/
「アードモア」の歴史
「アードモア」の創業は1898年。
もともとは、ブレンデッドウイスキー「ティーチャーズ」のキーモルトを製造する目的で蒸留所が建てられました。
ピートの効いた原酒を求めて製造されていた「アードモア」がシングルモルトとして注目されたのは、2016年です。
オーナーがサントリーに変わったことをきっかけに「アードモア」として発売され、味わいのバランスの良さ、コストパフォーマンスの高さで人気を集めます。
また、「アードモア」は製法や原料、樽も何度か変更されているようです。
蒸留方法は、創業当時の石炭の直火方式から、2001年に間接加熱方式のポットスチルになっています。
参考図書:『ウイスキーコニサー資格認定試験教本2020 中巻』P.30
大麦の加工(精麦)や樽の生産も自社で行っていましたが、今は他社から買い付けたものを使用しています。
バーボンウイスキーの王道「アードモア」の特徴3つ
「ティーチャーズ」のキーモルトとして歴史あるウイスキーでありながら、知られるようになったのはごく最近である「アードモア」。
「アードモア」の独特のピーティな味わいは、地元産の原料と豊かな水に支えられています。
長年、ブレンデッドウイスキーの味を支えてきた銘柄の特徴をみていきましょう。
「アードモア」は「ティーチャーズ」のキーモルト
「アードモア」は元々、「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の原酒として製造され始めました。
製造するウイスキーのほとんどをブレンド用にまわしていたため、以前は「アードモア」としてあまり知られていませんでした。
ピーテッド麦芽を使用したスモーキーさ、麦芽の甘みをもった原酒は、ハイランドらしい香味の「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の安定供給に貢献しています。
参考:https://www.suntory.co.jp/whisky/teachers/product/
「ティーチャーズ」については、以下の記事もあわせてご覧ください。
地元の大麦とピート・仕込み水を使用
「アードモア蒸溜所」がある地域は、ウイスキー造りに欠かせない大麦の産地でもあります。
「アードモア」は一貫して地元産の大麦を使用。
ピーテッドとノンピーテッドの2種類を使い分けています。
ピーテッド麦芽に使うピートも地元産です。
蒸留所から60kmほどのセントファーガスで切り出したピートを使用しています。
ミズゴケを含まないため潮の香りはなく、炭の香りが際立つ点が特徴です。
また、仕込みのための水には、蒸留所の北にあるノッカンディの丘に湧く水を使用しています。
銘柄による使い分ける多様な樽種
ポットスチルで蒸留されたウイスキーは、ファーストフィルのバーボン樽で熟成されますが、熟成樽にも「アードモア」のこだわりがみられます。
熟成には、クォーターカスクと呼ばれる一般的な樽の約1/4の大きさの樽を使用。
「アードモア」では、原酒と樽が接する表面積が多く熟成が早く進むというメリットから、クォーターカスクを好んで使っています。
馬の背に乗せやすい大きさのため、かつてはよく使われていましたが、今ではほとんど使用されません。
他にも、ポートワインに使ったポートカスクやシェリー樽で追加熟成することもあります。
このような多様な樽での熟成により、「アードモア」の香味を生み出しているのです。
参考:https://www.suntory.co.jp/whisky/ardmore/distillerry/
「アードモア」のラインナップ
近年シングルモルトとしても注目を集めている「アードモア」には、年代の違いを始め多彩な銘柄があります。
限定品や、すでに終売しているものも含め、それぞれの特徴を解説します。
アードモア レガシー
アルコール度数:40%
2016年にリリースされた「アードモア」のオフィシャルボトルです。
「トラディショナル・カスク」の後継品として発売されました。
ピーテッドモルトを80%、ノンピーテッド20%の割合で配合されており、比較的ライトなピート香が特徴です。
スモーキーな香りがありながらもスッキリ飲みやすい味わい。
オレンジなどの柑橘、スパイシーさも感じられます。
「アードモア」のピート香を楽しむのにピッタリの銘柄です。
アードモア トラディショナル・カスク→終売
アルコール度数:46%
「アードモア レガシー」の前のオフィシャルボトルです。
ピーテッドモルトを100%使用しており、ヘビーなピート香が特徴。
バーボン樽の熟成の後にクォーターカスクで追加熟成を行っています。
冷却ろ過をしていないノンチルフィルターなので、原酒の特徴が強く残っています。
ピート香、スモーキーさの他に、バニラの甘みも感じられるバランスの良さが特徴です。
日本では、アサヒビールによる正規輸入がなくなったため、現在出回っているものは並行輸入品になります。
アードモア トラディショナル・ピーテッド→限定品
アルコール度数:46%
ピーテッドモルトを100%使用した「トラディショナル・カスク」の流れをくむ銘柄です。
アメリカンオーク樽での熟成の後、クォーターカスクで追加熟成をしています。
リッチなピート香とスパイシーさの中に、フルーツやバニラを感じる余韻。
機内販売や免税店向けに限定発売されています。
アードモア ポートウッドフィニッシュ12年
アルコール度数:46%
バーボン樽での熟成後、ポートワインに使ったポートカスクで追加熟成を行っています。
「第22回インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2017」金賞を受賞した経験もあるほどです。
「アードモア」独特のスモーキーさに加え、赤りんごやクランベリー、ハチミツの甘さを感じる味わいです。
また、焼けたオレンジとシナモンのスパイシーさも感じられます。
アードモア トリプルウッド
アルコール度数:46%
アメリカンオークのバーボン樽、クォーターカスク、シェリーのパンチョン樽の3つの樽で熟成されていることから「トリプルウッド」と名付けられました。
ライトなピート香とキャラメルやビスケットのような、あたたかみのある甘み。
加水することで、ドライフルーツのフレーバーが広がります。
アードモア10年 2009 シングル マインデッド→数量限定
アルコール度数:43%
熟成期間が10年と短いながらも、フルーティで飲みやすい1本。
スモーキーさの中に、ハチミツをかけたトーストのような甘みと、ジンジャーのスパイシーさを感じられます。
数量限定で発売されています。
アードモア20年
アルコール度数:49.3%
「アードモア20年」は、蒸留した年によってラベルが異なるのが特徴です。
特に、1998年と1999年はイベント用に作られたため違う名前になっていますが、よく見ると20年であることが分かります。
バーボン樽を使った、「アードモア」の伝統的な製法で作られていますが、年によって味わいも異なります。
アードモア 25年
アルコール度数:51%
ピーテッドモルトを100%使用し、25年という長期熟成を経て作られた「アードモア25年」は、濃縮された甘みが特徴です。
バニラやフルーツの味わいと、スモーキーな香り、オイリーさとクリーミーさのある銘柄です。
アードモア30年
アルコール度数:47.2%
バーボン樽で長期熟成され、ノンチルフィルターで仕上げられた1本です。
やわらかなピート香と、レーズン、バニラ、パイナップルの甘み、シナモンなどのスパイシーさを感じます。
「アードモア」のオススメの飲み方
樽や熟成年数により味わいの異なる「アードモア」。
最大限に楽しむ方法をご紹介します。
まずは味や香りを楽しめるストレートやロックを
「アードモア」を楽しむには、まずピート香を感じられるストレートやロックがおすすめです。
同じスコットランド発祥のアイラウイスキーとはまた異なる、土っぽいピートの香りや、スモーキーさを味わえます。
香りにより飲みにくさを感じる場合は、加水してみましょう。
甘さがより際立ち、飲みやすくなります。
よりスモークの香りを楽しみたいなら、ハイボールもおすすめ。
食事にもよく合います。
相性抜群のおつまみはチーズ
スモーキーな香りが特徴の「アードモア」は、チーズとの相性が抜群です。
同じスコットランド産のハードタイプのパルミジャーノ・レッジャーノ、ゴーダチーズがおすすめです。
その他に、スモークサーモンなどの燻製した食べ物ともよく合います。
ウイスキーに合うおつまみは、こちらの記事も読んでみてくださいね。
まとめ
独特のピートの香りをもつ「アードモア」は、「ティーチャーズ」の味をしっかり支えながらも、独自のブランドを築いてきました。
「アードモア」を手に取ったら、こだわりの樽や熟成方法による味わいの違いを、ぜひ楽しんでみてくださいね。