ウイスキー「スキャパ」はスコットランド北方の島、オークニー諸島にある蒸留所で造られています。
現在リリースされているノンエイジの「スキャパ スキレン」は評価は高く、フレッシュな味わいが人気です。
終売しましたがこれまでリリースされた長期熟成のシングルモルトもクオリティーが高いと評判でした。
そんな「スキャパ」の特徴や製法、蒸留所の歴史を元バーテンダーの筆者が紹介します。
「スキャパ」とは
スコッチのアイランズモルトである「スキャパ」はフレッシュかつフローラルな風味で、甘い香りが特徴のウイスキーです。
以下に基本情報をまとめますので、参考にしてください。
「スキャパ」の基本情報
種類 | スコッチ/シングルモルト/アイランズ |
製造元 | ペルノ・リカール社 |
輸入元 | サントリーホールディングス |
蒸留所 | スキャパ蒸留所(オークニー諸島) |
ブレンデッドとの関わり | 「バランタイン17年」のキーモルト |
「スキャパ」の味
「スキャパ」の香りはハーブや花の蜜のようにフローラル。
ライトで非常にマイルドな味わいです。
加水するとより甘さが引き立つので、ストレートのみならずロックやトワイスアップでもじっくりと楽しめるウイスキーです。
「スキャパ」名前のさまざまな解釈
「スキャパ」は地名です。
由来に関して解釈は複数あり、ノース語(ヴァイキングたちの言語)のSkalpeith 、あるいは Scaupeithが由来の地名ともいわれています。
Skalpeithが語源の場合、「船(Skalpa)」「船地峡(Skalpeith)」という意味。
Scaupeithが語源の場合、「貝床(Scaup)」「貝床地峡(Scaupeith)」という意味です。
語源がSkalpeithとScaupeithどちらなのか、また語尾の-eitを付けるか付けないかで、「スキャパ」の解釈は分かれます。
「船地峡」という解釈と上記の語源については、1909年の文献「The Orkney Book」 に記載されています。
スキャパの町は細長い湾の両脇に地面のある地峡で、「地峡」という語源が立地にぴったり当てはまりますね。
なお、サントリーの公式ホームページでは、「スキャパ」の語源はボート(船)と解釈されています。
参考
The Orkney Book:The Place-Names of Orkney
The Orkney Book
「スキャパ」の歴史
スキャパ蒸留所の場所は、北海に浮かぶオークニー諸島の一番大きな島、メインランドにあります。
本項目で「スキャパ」の歴史について見ていきましょう。
スキャパ蒸留所の創業
18世紀終わりごろ、スコッチウイスキーの産業化に伴ってオークニーに3つの蒸留所が建設されました。
ハイランドパーク、ストロムネス、そして最後に建設されたのがスキャパ蒸留所です。
スキャパ蒸溜所は、1885年10月に、ハイランドパークのスチルマンとラナークシャー(スコットランド中南部の旧県名)出身の化学者によって設立されました。
当時のスキャパ蒸留所は、製麦・仕込み、発酵・蒸留・貯蔵と全ての機能を持ち、メインの動力は水車、サブの動力として蒸気エンジンを備えていました。
創業2年目の1887年、有名なジャーナリスト、アルフレッド・バーナードがスキャパ蒸留所を訪問し、当時の最新設備を見て「小さいながら英国内全ての蒸留所の中で最も完璧な蒸留所」という記述を残しました。
アルフレッド・バーナード
19世紀後半に活躍したワイン・スピリッツジャーナリスト。
1885年から2年をかけてスコットランド・イングランド・アイルランド全ての蒸留所を訪問。
著名な紀行文は1887年に出版された『大英帝国のウイスキー蒸留所(The Whisky Distilleries of the United Kingdom)』。
スキャパ蒸留所で特に先進的だったのは、蒸留の熱源です。
他の蒸留所が直火で蒸留する中、当時のスキャパ蒸留所では既に蒸気を使用していました。
他の蒸留所が直火から蒸気に切り替え始めたのが1960年前後なので、スキャパ蒸留所は極めて先進的だったといえます。
英国海軍将校の兵舎になっていたスキャパ蒸留所
現在スキャパ蒸留所は、スキャパ湾を見下ろす高台に建てられています。
スキャパ湾は第一次・第二次世界大戦時の重要な拠点でした。
北海と大西洋をつなぐ場所に位置していて戦略的に重要な海域だったこと、また島に囲まれているのでイギリス海軍の艦艇停泊地として好条件だったことが、拠点となった理由です。
スキャパ蒸留所は第一次世界大戦の間、英国海軍将校たちの兵舎とされていました。
原料を粉砕するミルルームには、将校たちの作った木造の階段が今も残存しています。
世界大戦とドイツとの関連も
またスキャパ湾はドイツ艦隊の自沈の場所としても有名で、第一次世界大戦終了後にはドイツの多くの戦艦が沈みました。
降伏したドイツ海軍の艦艇がスキャパ湾に集められた後、自軍の艦隊が無傷で連合国側に渡ることを恐れたドイツ海軍提督が自沈を命令し、41隻もの艦隊が沈没したのです。
第二次世界大戦中の1939年、ドイツ海軍のUボート(潜水艦)がスキャパ湾に潜入し、イギリスの戦艦ロイヤル・オーク号を魚雷で撃沈。
多くの戦死者を出す悲劇が起こりました。
操業停止からの復活
世界大戦を乗り越えたスキャパ蒸留所は、その後何度かオーナーが変わり、設備は時代に応じて改修されました。
しかし1994年には操業が停止してしまいます。
数年後、ハイランドパークの職人が出向いて設備保持のために少量生産を開始しましたが、2000年には閉鎖危機となりました。
転機となったのは2004年。
当時の所有会社であるアライド・ドメック社が、なんと200万ポンド(当時のレートで約4億円)をかけて蒸留所を改修し、再稼働させました。
2005年、ペルノ・リカール社がアライド・ドメック社を買収したこともあり、現在「スキャパ」はペルノ・リカール社の傘下にあります。
「スキャパ」の製法
昨今では製造・品質をコンピューターで管理する蒸留所も増えてきましたが、スキャパ蒸留所はハンドメイドでウイスキーを生産しています。
つまり、「スキャパ」は全5名の職人たちが24時間シフトで週5日間スチルを稼働させ、年間100万Lものウイスキーを生産しているのです。
そんな「スキャパ」の製法には、次のような特徴があります。
- ノンピーテッド麦芽の使用
- 業界最長の発酵時間
- ローモンドスチルによる蒸留
- バーボン樽熟成
- 海に面した樽貯蔵庫
それぞれ詳しくご紹介します。
ノンピーテッド麦芽の使用
アイランズモルトとしては珍しく「スキャパ」はピートを使用していません。
しかし、ピートをたっぷりと含む硬度の高い仕込み水を使用しているため、ノンピートでありながらほのかなピート香があります。
原酒に含まれる繊細な風味を引き立てるためにノンピーテッド麦芽を使用した結果、穏やかで飲みやすい酒質に仕上がりました。
業界最長の発酵時間
発酵に使用している酵母はドライイーストで、初期の発酵時間はなんと160時間。
48~72時間が平均的な発酵時間であることを考えると、非常に長い時間をかけて発酵させていたことが分かります。
「スキャパ」の発酵時間は現在でも100時間を超えており、業界でも比較的長いといわれています。
長時間の発酵は酸味の強いもろみを生み出し、そのもろみからできる原酒は軽くすっきりした味わいとなります。
唯一無二のローモンドスチルによる蒸留
「スキャパ」の大きな特徴は、初留釜がローモンド型のスチルであることです。
ドラム缶のような形のスチルは非常に珍しく、ローモンドスチルを使ってスコッチを造っているのは「スキャパ」のみ。
円筒の初留釜を使用することで、ライトでエレガント、かつハーブのようなスパイシーなウイスキーが生まれます。
バーボン樽熟成
バニラのような滑らかな甘さを引き出すために、熟成にはバーボン樽を使用しています。
樽は「スキャパ」の熟練の目利き職人によって、最も適したものが選ばれます。
シングルモルトには、ファーストフィルのバーボン樽のみを使用。
ファーストフィルのバーボン樽を使うと、強いバニラ香やフルーツの甘みをもつ原酒が生まれます。
ファーストフィル
これまで一度もスコッチ熟成に使用されていないバーボン樽のこと。
2回目に使用する場合はセカンドフィルといいます。
海に面した樽貯蔵庫
スキャパ蒸留所の樽貯蔵庫は海の近くにあり、貯蔵庫内には磯の香りが充満しています。
樽の中でウイスキーは少しずつ蒸発し、その代わりに潮風を取り込みます。
このかすかな呼吸により、「スキャパ」に潮の風味が生まれるのです。
「スキャパ」の種類
本項目からは、現在購入可能な「スキャパ」の種類についてご紹介します。
スキャパ スキレン
アルコール度数 | 40% |
容量 | 700mL |
参考小売価格 | 6,400円(税別) |
「スキャパ スキレン」の「スキレン」とは、ノース語で「光り輝く空」という意味。
その名のとおり、輝くような黄金色をしたウイスキーです。
熟成にはファーストフィルバーボン樽を使用しており、豊かなバニラ香が楽しめます。
バニラ香の他、パイナップルのようなトロピカルな香りに、メロンのような甘さ。
リッチな香りが楽しめ、しかも余韻も長く感じられるウイスキーです。
スキャパ グランサ
アルコール度数 | 40% |
容量 | 700mL |
Amazon参考価格(※2022.11現在) | 8,180円(税別) |
アメリカンオーク樽で熟成後、ピーテッドウイスキーの樽で後熟させています。
豊かさと深み、ヘザーハニー、かすかにフルーツの風味。
フィニッシュはスモーキーですが非常にマイルドで、ピーティーなウイスキーになじみのない方でもおいしく飲めるでしょう。
【終売品】「スキャパ」の種類
「スキャパ」はこれまで10年を超える長期熟成品をリリースしていました。
クオリティーが高いと評判でしたが、残念ながら現在は終売。
Amazonなどで手に入る銘柄もありますが、終売品なので価格は高騰しています。
スキャパ12年
アルコール度数 | 40% |
容量 | 700mL |
楽天参考価格 (※2022.11現在) | 29,818円(税別) |
「スキャパ12年」が流通していたのは1990年代。
「スキャパ」のオーナーがペルノ・リカール社に変わる少し前の2004年に「スキャパ14年」が発表され、その際に生産終了したウイスキーです。
流通年と熟成年から、原酒は1970年代後半~1980年代に蒸留されたものと考えられます。
つまり、一時操業を中止した1994年以前の原酒が使用されているという非常に貴重なボトルです。
味わいは「スキャパ」らしいハニー、焼き菓子のような甘さが感じられます。
スキャパ14年
アルコール度数 | 40% |
容量 | 700mL |
楽天参考価格 (※2022.11現在) | 36,852円(税別) |
「スキャパ14年」は、ペルノ・リカール社の傘下に入る少し前にリリースされました。
流通していたのは「スキャパ16年」が発売される2004年〜2008年までの約4年間のみ。
こちらの原酒は「スキャパ12年」同様、1994年の蒸留所休止以前の原酒が使用されています。
フルーティーでフローラルな味わいが、このボトルの特徴です。
スキャパ16年
アルコール度数 | 40% |
容量 | 700mL |
Amazon参考価格 (※2022.11現在) | 34,500円(税別) |
「スキャパ16年」がリリースされたのは2008年。
「スキャパ12年」「スキャパ14年」の後にリリースされたオフィシャルボトルです。
香りはフローラルで甘く、長期熟成ですがフレッシュさは失われていません。
ハニーも感じますが、甘すぎず非常に良いバランス。
飲み口はライトで、フィニッシュもさらっとしています。
スキャパ 1980 25年
アルコール度数 | 54% |
容量 | 700mL |
2,000本のみの限定販売品で、非常に貴重な銘柄です。
バニラとショートブレッドがアクセントになった、濃厚な甘さ。
桃や柑橘系のフルーツ、ナッツ、スパイスの香りと、味にほんの少しの塩っぽさが感じられます。
麦感もあり、ふくよかでリッチな味わいです。
オイリーでリッチな余韻は非常に長く、ストレートでじっくりと味わえる1本です。
「スキャパ」のおすすめの飲み方
「スキャパ」のおすすめの飲み方を紹介します。
ロックやストレートで
ライトな酒質の「スキャパ」は、ストレートで飲めばダイレクトにその味わいを感じられます。
加水してもバランスが崩れないので、ストレートの他、ロックやハーフロックでゆっくりと飲むのも良いでしょう。
「スキャパ スキレン」ハイボール
「スキャパ スキレン」で作るハイボールは、かすかな甘みが感じられます。
ソーダの爽快さと「スキャパ スキレン」のフレッシュさがマッチするので、食中酒としても最適です。
「スキャパ」の評判や口コミ
良い口コミ
「甘くておいしい」と甘さを評価する口コミが多数、見受けられました。
バニラやハチミツの香りがあるためスイーツとも好相性です。
悪い口コミ
「高額」「おいしいけど高い」という口コミが目立ちました。
自宅で常飲するには少々高めの価格なので、1本購入して特別な日に少しずつ飲んだり、Barで1杯ずつ楽しんだりするのがよいかもしれません。
最後に
「スキャパ」は5人の職人による手造りのウイスキーで、フレッシュでふくよかな甘みは長時間の発酵・ローモンドスチルの蒸留で生み出されています。
こだわりの製法から生まれた「スキャパ」の奥深い香りと味を、ぜひ試してみてください。